Let’s!ラブ・ランゲージ

Let's!ラブ・ランゲージ 表紙画像
 
 
※短編 400字詰め換算:33枚 画像は発行同人誌の表紙です※
あっちも有能な新任秘書(28歳)×不感症なはずの支社長(41歳)

色恋沙汰にはとんと縁がなかった支社長だが、
どうしたって欲しがってしまう場所があり――。

2013年のコミケで発行した「欲しがりなポーカーフェイス」の修正版です。
発行本の帯には「弱みに付け込み Let’s下剋上!」と煽りが書かれていました……。
なるべく当時のままにしていますが、あまりにも…な箇所を加筆修正しています。
 
 
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 十二月初旬の思いがけない雪にも、相川辰美《あいかわたつみ》のペースは乱れない。
 雨が降ろうが槍が降ろうが辰美が一番乗り出社を果たせたのは、ひとえに一時間前行動の賜物だった。早朝のせいか渋滞もたいしたことはなかったし、すでにスタッドレスタイヤに交換していたことも功を奏した。
 備えあれば憂いなし――我ながら素晴らしい心がけだ。
 満足そうに口元を笑ませた辰美は、いそいそと給湯室に向かう。乾いている愛用のダスターを湿らせるためだ。光沢が出たりするから乾拭きも捨てがたいが、デスクやチェアーは水拭きが一番すっきりする。それにそうすることで、心が落ち着いたりもするのだった。
 三歩引いて拭き清めた場所を見回しながら、よし、と何度もうなずく。
 こなしたい日課はまだある。フィカス・ロブスタ、いわゆるゴムの木のお世話もその一つだった。だが愛しいゴムーちゃんの葉っぱをダスターで拭き始めて間もなく、背後から「支社長……」と溜息に近い声がかかり中断を余儀なくされてしまう。声の主は、辰美より五つ年上の四十六歳で、自称・若々しい美人秘書だ。
「私の仕事をとらないでください」
「君の仕事は掃除ではないだろう」
「そのお言葉、そっくりお返しします」
 いつもながら、ああ言えばこう言う彼女は、書類の束をデスクに置きニコリと笑う。もちろん、目は笑っていない。
「あと四十分はプライベートだ」
 辰美はダスターを折り畳んだり広げたりしながら、まだ拭いていない葉っぱから目が離せない。ゴムーちゃん待っててね……油断したら心の声が漏れ出てしまいそうだった。
「失礼ながら支社長。秘書室長は本日付の着任となっております。プライベートタイムのお掃除も結構ですが、せめて始業までにはマル秘書類のお目通しをお願いします」
「ああ、判った。十分前までには済ませるよ」
「今週は介護施設用地の入札確認、遅れていた流通店舗の設計案が上がってきましたので企画会議があります。住宅部門においては、モデルルームのインテリアについて 最終決定をお願いします。不明な点はございますか?」
「いや、ないよ。ありがとう」
 いかにもお小言を言いたげな彼女が出ていくのを待ってから、辰美は存分に日課をこなし、いよいよマル秘スタンプが押された書類をめくる。
「え……」
 ただ、三多優吾《みたゆうご》という男の写真が目についただけだった。
 なのにどうしてか、前屈みにならざるを得ない事態に陥り、そのせいで、手にしていたコーヒーカップの中身を派手にぶちまけてしまう。こんな為す術もなくびしょ濡れになったのは、乗っていた飛行機がエアポケットに入ったとき以来だ。あのときは、持っていた紙コップが宙に舞い、冗談みたいに中身が降り注いだっけ。
 だがこんな不測の事態に見舞われても辰美は慌てない。機上の人ではそれこそ為す術もないが、今は違う。支社長室のロッカーには、クリーニング済みのスーツ一式に加え、靴や靴下、下着も常備していたのだ。
 つくづく、備えあれば憂いなし、である。
 こうも日頃の備えで身が助かると、なんとも言えない誇らしさが込み上げてくる。止めようもなく、どんどん気分が高揚していった。
 濡れた服を着替えるには、まずは脱がなければならない。脱ぐというキーワードは、辰美にラスベガスの男性ストリップショーを思い出させた。ショーダンサーの肉体美には程遠いが、備えの一環でジムに通っていることから多少の自信があった。
 辰美はショーダンサーになりきって、背広、ネクタイ、Yシャツ、アンダーシャツを、一枚、一枚、思わせぶりに振り回してから空中に脱ぎ捨てた。
 それは思いの外気持ちよく、これまで感じたことがない解放感で満たされた。スラックスを放り投げ、ボクサーパンツ一丁の姿になったときには、すっかりその気になっていた。
 辰美はロッカー脇の姿見の前で、力強く両腕を振り上げ、ボディビルダーよろしく『強いんだぞポーズ』をしてみた。渾身のキメポーズだ。我ながらそこそこ美しい。
「フロントダブルバイセップス。最もポピュラなポージングですね」
 ちょっと待て、この男は誰だ。あ、写真の男……新任の秘書室長だ。これはマズイ。もし実物を前にして、さきほどのように勃ってしまったら。穴があれば是非入りたいところだが、穴を掘って埋まるにもここには土がない。ならばどうする?
 せっかく、コーヒーを零したおかげで収まったというのに。これではあんまりだ。
 フル回転で思考を巡らせた辰美は、とっさに指一本で乳首を隠した。つまり、右の人差し指では右乳首を、左の人差し指では左乳首を隠したのだった。
「斬新なポージングですね」
 人懐こい笑みを浮かべた男が近付いてきて、背中をすっぽりと覆うように立つ。影が差すあたり百八十センチは超えているだろう、かなりの高身長だ。
 辰美は振り返ることも忘れ、鏡越しで男に見入った。
 眉カット見本のようにきりりと整った眉に、長いまつ毛。垂れ目がちな目元は優しげで、全身に穏やかな空気をまとっている。二十八歳とのことだが、物腰だけなら四十代でも通るのではないだろうか。
 その一方、モノホンのアラフォー男・辰美はというと、無表情ながらも、涼やかで端正な顔を一ミリたりとも崩さず、文字通り微動だにしない。言い方を変えれば固まっていた。
「相川支社長、こんなときに言いにくいのですが、申し遅れたことがあります」
「……なんだ」
 躰は動かないのに口は動いた。辰美は内心驚きながら、男を見る。もちろん鏡越しで。
「急なことですが、会長より秘書室長に命じられました、三多優吾です。誠心誠意お仕えいたしますので、よろしくお願いします」
「三多君か……こちらこそよろしく頼む」
「ところで支社長。いつまでそのポージングを継続するご予定ですか?」
 そんなのこっちが知りたい。思うように躰が動かないのだから、辰美にはどうしようもなかった。だが幸いなことに口は動く。お喋りは得意ではないが背に腹は変えられない。
「少し離れてくれないか」
「こんなにも無防備な支社長を放ってはおけないのですが」
 抱き締められる。と、辰美は感じた。ならば尚のことこのままでいたほうがいいはずだ。
「君がそんなだから、私は乳首を隠しているんだ。無防備ではないだろう」
「なるほど、そういうことですか」
 何故か嬉しそうに笑った三多は、警戒していた通り、案の定背中を抱き締めてきた。事の次第がまるで理解できない辰美は、さらに固まった。もはや呼吸も止まりそうだった。
 それに加え、未経験の感覚が下半身を中心に広がり始めているのだ。なにがなんだか判らなさ過ぎて、冷静沈着が服を着て歩いているはずの辰美だが、今はすっかりそれを欠いていた。
 ただどうしようもなく、鏡越しで三多を見遣る。
「今日の予定ですが、すべてキャンセルにしましょう」
「……どうしてそうなる」
「支社長の心身ケアも、秘書の仕事だと思うからです」
「そう……かもしれないが、不可能だろう」
「不可能を可能にするのが、秘書室長の腕の見せどころかと」
「な……にを、したいんだ君は」
「あなたの弱みに付け込もうと思いまして」
 三多が甘く微笑んだ。

 三多は相当な切れ者らしい。
 ものの三十分も経たないうちに、代役が可能な打ち合わせには代わりを立て、延ばせる予定はことごとく明日以降に変更となった。
 辰美は、三多の敏腕ぶりを傍観しながら、自分の弱みについて考えあぐねていた。
 例えば年齢、いや、四十一歳で支社長であることは強みだろう、業績を認められての大抜擢だったのだから。
 では、身長が百七十五センチということか? いや待て、成人男性の平均身長は百七十一センチだから、平均より少し上だ。弱みではないな。因みに体重は六十キロなのだが、恐らく弱みとは無関係だろう。
 そもそも三多の言う弱みとはなんだ?
 ああでもないこうでもないと、時折首を傾げたり、天を仰いでみたり。辰美は未だ着替えておらず、あられもない格好のままで悩み抜いていた。
 優秀な空調と、一回り大きい三多のコートのおかげで寒くはなかったが、あまり褒められた装いではない。こんなときに自称・若々しい美人秘書が入ってきたら、どんなお小言を聞かされることか。自然と眉根が寄ってしまう。
「お待たせしてすみません。寒くないですか?」
 応接セットのソファーに移動してきた三多は、辰美の隣に座る。
「いや、大丈夫だ」
「しかしすごいですね、卓上トルソーに着せてるみたいに自立するなんて。支社長ご自身でアイロンがけを?」
 辰美のデスクの上には、着替えようとして叶わなかった替えのYシャツが乗っていた。三多はそれに、愛らしい仔犬でも見るような眼差しを向けている。
「ビシッと着たいから、固いのが好みなんだ。クリーニング店では立つほどの糊は利かせられないらしい」
「ああ、しみ抜きも生地が傷むとかで、とことんはやってくれませんしね」
「あ……」
 コーヒーでびしょ濡れになった衣服の存在を思い出し、辰美はそわそわし始める。ネクタイは諦めるしかないが、シャツは今なら水洗いでおおまか落ちる。だが、尻を浮かそうとしたら、三多がやんわりと制してきた。
「そんな格好で、しみ抜きでもするおつもりですか?」
「君が着させてくれないんだろう」
「ストックのシャツはあれだけですよね? 汚したら、備えがなくなりますよ」
 日頃の備えのおかげで、今日は朝からとても順調だったのだ。辰美にとって、三多の言葉は限りなく脅迫に近い。だが、どこか甘さを含んでいるように思えて、確認せずにはいられなかった。
「どうして汚す前提なんだ」
「あなたがそれを、望んでいるからですよ」
 辰美はこんなに優しく笑う男を見たことがなかった。肩を抱いてくる体温はあろうことか心地よく、囚われてはいけない、と頭では判っているのに躰が言うことを聞かない。
 羞恥に見舞われた辰美は、それでも三多から視線を外さなかった。押しも押されぬ立派な大人だが、質問期の子どものように、どうして? が溢れてきて止まらないのだった。
「私が知らないことを、何故君は知っているんだ?」
 三多は微笑むだけでなにも言わず、なんの前触れもなく唇を塞いできた。
 あまりに予想外過ぎて硬直していると、今度は耳たぶを食み、首筋に舌を這わせながら胸に手を伸ばしてくる。
 その瞬間ピクリと肩が跳ね、背筋に熱いなにかが駆け登った。自分の躰に起こった異変が理解できず、辰美は恥も外聞もなく狼狽えだした。
「やっ、やめてくれ」
「ここでやめたら辛いと思いますが」
 三多の柔らかい声に、ゾクリと肌が粟立つ。信じられないことはまだまだ続く。胸の粒をなぞられると先端が尖り、加えてじんわりと腰の奥が熱くなった。
「……う…そだ…」
「乳首、やっぱり性感帯だったんですね」
 三多は甘く囁いて、嬉しそうに笑う。
「……ちが…う…っ」
「とっさの行動は嘘を吐けませんから」
「なにを言って……」
「そのまま、自惚れさせておいてください」
 なにが三多に自信を持たせたのか、辰美には知る由もない。考えようにも三多の大きな手が下着に潜り込み、人質を取るように中心を掴まれてはたまらない。まともな思考など、羽より軽く吹き飛んでしまう。
「やめ、ぁ…っ」
 なにかを思い知らせるような弄り方に、思わず脚を閉じようとしたが間に合わない。三多が、すかさず膝を割り込ませてきたからだ。
「なっ、き、君はゲイなのか……?」
「二十八年間、そうだと自覚したことはありませんよ」
 三多が、愛撫の手を休めずに言う。
「なら……どうしてこんな……っ…ん…っ」
 ふいに言葉を封じられ、だが強引ではなく、労わるような優しい舌先が唇をなぞった。ゾクゾクっと肌が粟立ち、まるで三多を悦んで迎え入れるかのように自然と唇が開く。
 三多の唇が笑んだような気がした次の瞬間、熱い感触がぬるりと口内に入り込んでくる。
 優しかったそれが、次第に貪るような動きに変化したときには、辰美の昂りからはぬちゃぬちゃとした淫猥な水音が沸き立っていた。
 その粘着音にも煽られて、どんどん昂っていく。
「……ん…ぅ…っ」
 三多の手淫は的確としか言いようがなく、どこをどうすれば感じるのか、自分でも判らないというのに、誰よりも知っているようだった。
 口内を掻き回してくる舌の動きに臆すれば、こちらだというように絡められ、じゅるりと吸い上げてくる。痛いくらいのそれに感じてしまい無意識で三多を抱き返すと、昂りを上下する動きがより激しさを増していった。
 口内からも、下腹部からも、くちゅくちゅといやらしい粘着音が沸き立って、否応なしに興奮が跳ね上がっていく。
 唇を離され、喪失感に見舞われたのも束の間、胸の突起を周りの皮膚ごと口に含まれて、辰美はどうしようもなく仰け反った。
「……ん…っ…だ…めだ…もう…やめ…っ」
「イきたいんでしょう? 出していいですよ」
 あやすようなもの柔らかい声。
 不覚にも胸がキュンと高鳴ってしまう。一回り以上も年下の相手に、どこからどう見ても男でしかない相手に、どうしてこんなにも乱されてしまうのか。考えようにも辰美はもはや、羞恥心よりずっと快感の方が勝っていた。
 だがそれでも、辰美はなけなしの理性を口にする。
「は…っ、はぁ…っ…だ…めだ…ソファーが汚れる」
「問題はそれだけですか?」
 僅かに、ほんの少しだけ胸から唇を離した三多がじっと見つめてくる。欲情を湛えた瞳の熱さに、知らず全身がぶわっと粟立つ。
「そう…っ…だが……」
 にこりと笑った三多は、次の瞬間、昂りを握ったままで頭を下げていく。ぼやけているのは視界だけではなく、思考もそうだった。
 なにをするつもりなのか、理解に及ばずぼうっとしていたら、まさかとは思うがふとその意図に気が付いた。
「お…おい…っ、ん…っ…は…っ…やめ…っ」
 一片の迷いもなく昂りを口にした三多は、すぐに頭を上下し始めた。根元までずっぷりと口内に含み、強く吸い込みながら一気に先端まで舐め上げる。
 そうして再び根元まで戻され、それを速いスパンで、じゅぷじゅぷと引き締めた唇で扱かれてはたまらない。
 瞬く間に絶頂の足がかりが見え、でも僅かに残る理性が惚けた頭を覚まそうとする。
 まるでそう、天使と悪魔のせめぎ合いのようだった。
 今すぐにでも達してしまいたい衝動と、達することへの罪悪感と恐怖心。相反するそれに歯を食いしばって耐えていると、ふいに、唇と掌で責め立てていた三多が手を離し、昂りの根元から繋がる膨らみを柔らかく揉み始めた。
 そうしながら、一層キツク引き締めた唇で扱くスピードを速められ、辰美は瞬く間に頂きまで追い上げられてしまう。
 躰の中でなにかが爆発したような衝撃が脳天を貫き、全身がカッと燃えるように熱くなったとき、辰美は腰を浮かせながら欲望を解き放つ。
「はっ、ん…っ…っ!」
 最後に射精できたのは一体いつだったか。久しく迎えた快感は強く、長く尾を引いた。
 三多はそれを、ごくっ、ごくっ、と生々しく喉を鳴らしながら余さずぜんぶ呑み下していく。
「はぁ…はっ…はぁ…」
 目を細め、嚥下する様が信じられないほどいやらしい。
 ぼやけた視界に映る、艶めかしく上下する喉仏に異様な興奮を覚え、辰美はつい三多の頭を両手で弄っていた。
 やがて衝動が収まると、顔を上げた三多がニコリと笑いかけてくる。
「続きをしましょうか」
 欲情した美形が微笑むと、もの凄い破壊力があることを初めて知った。この匂い立つほどセクシーな男に抗えるはずもない。
 ことごとく理性が崩壊した頭が、勝手に縦に揺れた。

 僅かな時間でも惜しい。
 三多の言葉に、辰美は異論などなかった。
 辰美の住むマンションも会社からそう遠くはない。それでも三多は「うちのほうが五分早く着く」と有無を言わさず、辰美の愛車を自分の車のように操って帰路を急いだ。
 三多は駐車場から寝室まで、ずっと手を引いて離さなかった。辰美はそんな熱のこもった強引さに煽られて、ベッドに寝かされたときには、羞恥で死ねそうなほど昂っていた。
「早くしたいって、顔してますね」
 顔を挟み込むように両肘を突いた三多が、昂奮を宿した瞳でじっと見下ろしてくる。
「……それは君のほうだろ」
 間近に迫る精悍な顔に、カッと羞恥が湧き上がる。直視できずに顔を背けてうそぶくと、すかさず三多に顎を掴まれてすぐに戻されてしまう。
「お互い様だと思っていますが」
 笑みを零した三多が額に口づけてくる。
 甘い……もしもこの身がチョコレートなら、今のキスできっと跡形もなく蕩けている。
 こんな扱いを受ける日が来るなんて。
 恋愛経験ですら乏しいところにきて、しかも男に、それだけじゃない、十三歳も年下の部下に、だ。
 ここまで、ある意味男の矜持を覆されるといっそ清々しい。だがなにより、未知なる期待のほうが大きかった。
 初めて他人の手でイかされたことで、なにかの箍が外れてしまったのかもしれない。
 形の良い唇がゆっくり降りてくる。
 辰美は観念したように瞳を閉じると、全身の力を抜いた。

「はぁ…っ、はっ…もう…やめてくれ……」
 痛いほど勃ち上がった胸の尖りを、ぬめる舌先がこれでもかと刺激してくる。強い快感に仰け反れば、今度は周りの皮膚ごと吸い上げられて為す術もない。
 弄られ続けたそこは、男のモノとは思えないくらい柔らかく膨らみ、じんじんと熱を持っていた。
 このままでは胸だけの愛撫で達してしまう。
 それは嫌だと何度も訴えているのに、三多はそれでも執拗に責めてくる。
「ここだけでイけますよね? 我慢なんてしないでください」
 甘く囁かれた瞬間、左右の突起をぎゅっと強く捻られ、電流のようなものが全身を走り抜けた。
「くっ、はぁ…っ!」
 突如訪れた極みに、辰美は大きく仰け反りながら欲望を解き放つ。すると三多は、快感を長引かせるように放つリズムに合わせて扱いてくる。
 気持ちよかった。それこそ天に昇るように。だがガクガクとした痙攣が落ち着いたのも束の間、白濁にまみれた指を脚の狭間に忍ばされて面食らう。
 緊張が伝わったのか、三多が穏やかな声音で囁く。
「少しでも辛かったら言ってください」
 なにをするつもりなのか、辰美は判るけれど判りたくない。両脚を限界まで左右に割られ、とてつもない羞恥に苛まれる。だが覚えず、どうしようもない衝動が込み上がった。
「……私にもさせてくれ」
 上体を起こし、這うようにして三多の腰に顔を寄せた。目を丸くしていた三多だが、その意図に気付いたらしい。胡坐をかいて、宥めるように頭を撫でてくる。
 四つんばいになり尻を高く突き上げた格好で、硬くそそり立つモノを口に含む。それとほぼ同時に、長い腕が伸ばされて狭小な場所に指が当てられた。
「いやらしいですね」
 揶揄するような言葉も、容易く甘美な快感にすり替わる。
 三多のそれは大きくて、嘔吐くほど深く呑み込んでもまだ根元には届かない。それでも懸命に呑み込もうとしていたら、逞しいそれに口内を擦られて強い快感が込み上がる。
 そうされながらぐちゅぐちゅと窄まりを弄られると、もっと強い刺激が欲しくてたまらなくなってくる。
「もう……大丈夫だ」
 屹立から僅かに唇を離し呟くと、三多が包み込むように両手で頬に触れてきた。どちらからともなく唇を重ね、深い口づけを交わしながらベッドに仰向けになった。大きく脚を割り開いた三多が、入り口に熱い塊を押し当ててくる。
 ゆっくりと、慎重過ぎるくらい慎重に、口でも持て余す三多の剛直が入ってきた。
「ん…っ、く…ぅ…っ」
「息、止めないで、ください」
 なにかを堪えるような物言いに、そうか、と辰美は気付く。苦しいのは自分だけじゃない。三多は三多でキツイのだ。
 躰の力を、特に受け入れている場所の力を抜こうと、はぁ、はぁ、と断続的に息を吐いていたら、三多は気を紛らわせようとしているのか、啄ばむようなキスを何度も唇に落としてくる。
 くすぐったいくらいの優しさを一身に受けながら、辰美は次第に官能だけを拾えるようになってきた。
「……み…三多君…は…っ…ん…っ」
「優吾です、支社長」
「ゆう…ご…」
「はい」
「……たつ…み…だ」
「辰美さん……もう……痛くないですか?」
 噛み締めるように名前を呼ぶ三多の額には、汗が滲んでいた。心配そうな眼差しにうなずくと、繋がったまま抱き起されて、膝の上に座らされた。まだ、ぜんぶを受け入れきれていないせいか、三多はがっしりと腰を掴み固定している。
「このほうが自分で加減ができるでしょう?」
 頷きながら、騙し騙し腰を落としていく。
「う…ぅ…っ…ん…っ…んん…っ」
「もう少しですよ」
 濃い欲情の焔を宿す視線に射抜かれながら、じりじりと剛直を呑み込んでいく。ようやく尻が三多の腰に密着したときには、二人して汗だくになっていた。
 辰美は、くたりともたれかかるように抱き付いた。すると、三多が短く息を吐く。
「ぜんぶ、入りましたよ」
 ずんと、自覚させるように突き上げられて、有り得ない圧迫感に一瞬目の前が真っ白になる。だがそれは辛いだけではなく、そこには確実に快感が存在した。
 初めはゆっくりとしか動けなかった辰美だが、次第にコツを掴みリズムよく腰を上下し始めた。躰の中が、三多の形に造り替えられていくのがよく判る。
 重々しく力強い律動に、内臓が押し上げられているような衝撃が走り、少しずつ頭の中が白く霞み始めた。
「ん…ぁ…っ、だめ…だ…っ」
「気持ちいいですか?」
 不安そうな瞳に射抜かれて、組み敷かれているというのに、庇護欲みたいなものが胸に込み上がる。同意のもとに大人同士がしていることだ、と伝えたい辰美は、視線を合わせながらたどたどしく言葉を紡ぐ。
「いい…っ…気持ちいい…初めてだ…こんなの」
 三多の首にしがみ付きながら、早いリズムで腰を落とし、そうすると三多がそれに合わせて力強く突き上げてくる。
 パンパンと肉のぶつかる音に煽られて、辰美の動きが激しさを増していく。
「はぁ…っ…ぁ…っ…ゆう…ご…」
「辰美さん……」
 甘く掠れた声で呟いた三多が、強く抱き締めてきてそのままベッドに押し倒してくる。
 三多は片脚を肩に担ぎ、もう片方の脚を太ももが胸に付くほど折り曲げて、ガツンと音がするくらい深々と貫いてきた。
「ぁ…ぁ…は…ぁ…んぅ…っ」
「声、出してください。もっと気持ちよくなるから」
 声を押し出させるような、激しい律動に変わる。
 臼を挽くように腰を回し、試すようにあらゆる場所を突いてくる。自然とタイミングを合わせるように腰が揺れ、夢中になって快感を拾っていたそのとき、ふいに脳天を貫くような衝撃が全身を駆け抜けた。
「あぁ…っ! な、なに…が…っ」
「ここ、ですか?」
 再度同じ場所を、だが今度は勢いよく突き上げられ、凄まじい快感に躰のあちこちで火花が散る。
「そこ…っ…な…んだ…っ…はっ…はぁっ…ぁぁっ」
 訳が判らない熾烈なそれに、思考が奪われていく。
 三多はそこだけを集中して突き上げ、ずり上がっていく辰美の躰を自身に引き戻し、尚も激しく揺さぶった。
 陸に上がった魚のようにびくびくと背中が跳ね、辰美は身も世もなくひたすら喘ぐ。
「あっ、あぁ…っ、ん…っ…はぁ…っ」
 声を出すと気持ちよくなる。それは本当だった。
 一度漏れ出てしまうと、いくら意識しても止まらない。
 熾烈な突き上げの中、三多が手を握ってくる。
 どうしようもなく胸が締め付けられた瞬間、辰美は絶頂を迎えた。
「あぁぁ……――っ!」
「く…っ、っ……、は……」
 三多が苦しげに息を詰めた次の瞬間、熱い放埓が体内で弾け、ずしりと重い衝撃が胃袋の底まで響く。
「……ぁ…っ」
「……――辰美さん」
 どこまでも甘く囁いた三多が、ゆっくりと躰を倒してくる。
 ぎゅっと抱き締められて、言いようのない温かさで胸の奥が満たされていく。
 まだ出会ってものの数時間だというのに、この気持ちは一体なんなのだろう。
 あやふやな意識の中、まだ口慣れない名前を呼ぶ。
 お返しのように降りてきた口づけは、なによりも甘く感じた。

 いつの間にか眠っていたらしい。
 息苦しさに目を開けると、間近に三多の顔……というより顎があった。
「つらくないですか?」
 ずっと見られていたのだろうか。転げまわりたいほどの羞恥が込み上がり、辰美は不自然に視線を泳がせた。
「大丈夫…だと思う…」
「本当に?」
 ぐっと顔を寄せられて、逃げ場がなくなる。
 とぼけたいところだが、温かい眼差しにほだされた辰美はつい本音を漏らす。今さら恥ずかしがったところでなにもかもが遅い。
「腰の奥が疼いているのは、どうしてだろう」
「痛いんですか?」
「いや……どちらかと言えば、その逆ではないだろうか」
「物足りないってことですか?」
「ぜんぶ初めてだったんだ、足りるとか足りないとか……よく判らない」
「初めてって、男とのセックスが、ですか?」
「ぜんぶと言っただろう。私はセックスで射精したことはないし、性的な興味はすこぶる薄い。生まれつき不感症なんだと思う。性欲が欠如しているんだよ」
 三多が大きく目を見開いて、次の瞬間、とろとろに頬を緩ませていく。
「奇跡だ……」
 あばら骨が軋むほど抱き締められて、呼吸もままならない。背中を叩いても力強い腕は緩むことはなく、そればかりか、左右に振り回すように躰を揺らされて、大袈裟ではなく本当に酔ってしまいそうになる。
「やめ…ろ…くらくらする」
「俺……一生大切にします」
「大袈裟だな君は」
「反射的な行動ほど、雄弁なものはありませんから」
「どういう意味だ……」
「辰美さんって、上半身を隠しながら温泉とか入るタイプですか?」
「どうして隠す必要がある。唐突になんだ?」
「俺だけに反応するってことでしょう? これが嬉しくない男はいませんよ」
「あ……」
 半信半疑ではあった、だが三多の言葉は意外としっくりきていた。
 思えば堕ちていたのだ、三多のプロフィール写真を目にした瞬間に。なんだか嘘みたいな話だが、現実なのだから仕方がない。
「これからもよろしく頼む」
「公私ともに、お仕えします」
 甘く囁いた三多が、まるで誓いを立てるように手の甲へ口づけてくる。
 たったそれだけのことで躰を火照らせた辰美に、三多はいたずらっぽく笑いかけた。
「欲しいですか?」
 いったいどう応えればいいのだろう。
 あからさまに欲するのは年相応じゃない気がするし、いらないと嘘をつけば三多を傷つけるかもしれない。
 ぐるぐると思いあぐねる辰美は、ああでもないと右の人差し指を右乳首に持っていき、こうでもないと左の人差し指を左乳首に持っていく。どこまでも無意識だった。
「いい大人にむずかしいことを聞くな……」
「雄弁な人差し指でよかったです」
 覆いかぶさってきた三多が、嬉しそうに笑った。

                   了